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胸が痛い

少し前のこと、
私の母校でもある近所の中学校で、
男子生徒が先生を殴って警察に補導された。
新聞のローカルページにも小さく記事になったし、
私の所へ来ている中学生たちからも話は聞いていた。

今日わかったこと、
先生を殴って捕まった少年は、
6年前、私がとある子供英会話教室で教えていた子だった。

年子のお兄ちゃんと一緒に通ってきていた子だった。
もの静かなお兄ちゃんに比べて、
コロコロと太った彼は確かにやんちゃな子だった。
書きましょう、座りましょう、並びましょう、
全ての指示に逆の行動を取っては、きゃきゃきゃと声をあげて笑った。
いたずらをしては、私の反応をうかがっているように見えた。
試していたのかもしれない、「センセー、俺のこと嫌いなんだろ?」って。
そんなだったから、もちろん私の注意は彼へ向かいがちだったけれど、
私は常に平らな気持ちで彼に向かった。
試さなくたっていいんだよ。

一度だけ、本当に叱ったことがある。
レッスン中に彼が教室を飛び出したから。
教室の前は車の往来が激しい通り、私が彼を追って出れば教室に残される6人の子供達。
とっさに、いちばん芯のしっかりした女の子に「みんなを見ててね」と頼んで
私は彼の後を追った。
どこかへ逃げるわけでもなく、建物の周りをくるくると走り回る彼は
追ってきた私の姿を見つけて満面の笑みを浮かべた。
追いついて、腕を伸ばして、
後ろから羽交い絞めにするように、抱きしめるように捕まえる。
彼の顔からは笑いが消えて、私の腕を振りほどこうと激しく暴れる。
凄まじい抵抗が収まった頃、彼をこちらに向き直らせ、その両腕を強く掴んで私は言った。
「こんなことは絶対にしてはいけない。
そうでなければ、私は、きみも他のみんなも守ることができない。
教室の中でやんちゃなのは構わない。でも、きみ自身を傷つけるようなことや
他のみんなを傷つけるようなことだけは私は絶対に許さない。
きみだけでなく、誰がしても絶対に許さない」
ねぇ、試さなくたっていいんだよ・・・。

「髪の毛なんて金髪でさ、体も大きいし、みんな怖がってたんだよね」
中学生たちから聞かされた「今の彼」は、
私の中に残っているあの頃の彼のイメージからは想像もつかない。
毎週彼と兄を教室に迎えに来ていたお母さんは、数年前に亡くなったという。

確かに、難しい子だった。
でも、悪い子ではなかった。
だって、あの1回だけで、後は絶対に教室を飛び出すことはしなかったから。
絶対に、悪い子ではなかった。
でも、中学生になった今でも、きっと彼はまだ試していたんだ。
髪を金色に染めて、授業中に大騒ぎをして、大人を挑発して、
試していた。
「お前ら、どうせオレのこと嫌いだろ?」

大人が悪いとか、社会が悪いとか、環境がいけないとか、
そんなことを言うつもりはない。
配慮すべきことはいろいろあるけれど、
何がどうあれ、人を傷つけてはいけないんだから。
それくらいのことはわかってもいい年齢の彼がこんなことをしてしまうのは
やっぱり彼の中にある甘さがいちばんの原因なのだろう。

でも、今晩のセンセーは、もう何年も会っていないキミのそんなニュースに
すごく胸が痛んでいるよ。
あの時、ちゃんとキミに言ってあげればよかったんだろうか。
「試さなくていいんだよ。私はキミが好きだよ」
胸が痛んでいるよ。

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Top▲ | by mikansky | 2005-11-27 00:06 | other
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