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近頃時折考えること

最近、生きることとか死ぬことなどをふっと考えることがあります。

今よりも若い頃は、
死どころか、自分が歳をとることすら現実として感じることができずに、
今が永遠に続くような錯覚の中で暮らしていたような気がします。

今の私は、
自分の年齢と、
もう生き直すことはできないのだということに気づいてしまったせいで
時々死ぬことが無性に怖くなることがあります。
怖いから、命というものに対して少し謙虚になったような気もします。
人は少しだけ恐怖を抱えていた方がいいのだな、と思いながら。

『美しいお経』(瀬戸内寂聴)という本の中にこんな言葉を見つけました。

「すべての生きものにとって生命が愛しい
己が身に身にひきくらべて殺してはならぬ」
 (『美しいお経』 瀬戸内寂聴 138ページ) 

原始経典『ウダーナヴアルガ』にある言葉だそうです。

人は必ずいつかは死ぬものだから、
だから、
誰一人として、理不尽な死を迎えることだけはあってほしくないと、
どうしたらそんな哀しい死をなくすことができるのかと、
一日に一度は考えてしまいます。
なのに、
酒を飲んで車を運転する馬鹿者に、
何の自覚もないままに子を生した、親とも呼べぬ親に、
自分の考えを力で思い知らせようとする無法者に、
心にずれた歯車を抱えて息を潜めている異常な者に、
正義の名の下には他国の民の命も自国の民の命も軽んじる者に、
今日はいくつの命が消されたのでしょう。

全ての人が、
美味しいと笑えるように、
相手の心を慮った言葉で自分の思いを伝えられるように、
日に一度はうれしいと思えるように、
安心して眠れるように、
笑って命を終えることができるように。
私にできることは何なのか、
そろそろ真剣に考えないことには
何もできないままでは笑って死ねないなぁ、と思います。

てなことを考えていたら、
こんな文章を思い出しました。
アメリカがイラクへ攻め入ったときに、
作家パウロ・コレーリョがブッシュ大統領に宛てて書いたメッセージです。
多分、自分の頭と心と言葉を駆使すれば
何かができるのだと思います。







ありがとう、偉大な指導者ジョージ・W・ブッシュ。

サダム・フセインが体現している危険をすべての人に知らせてくれて、ありがとう。
私たちの多くは、彼が化学兵器を、自国民に対して、クルド人に対して、
イラン人に対して使用したことがあるのを忘れてしまっていただろうから。
フセインは血に飢えた独裁者であり、
現時点においてもっとも明白に悪を体現している人物のひとりである。

しかし、私があなたにお礼を言いたい理由はほかにもある。
二〇〇三年の最初の二か月の間に、
あなたはいくつも重要なことを世界に示してくれたのであり、
それゆえ感謝を捧(ささ)げたい。
そこで、子供のころに覚えた詩を模して、あなたにありがとうと言っておきたい。

ありがとう。
トルコの国民と議会とが、
たとえ二百六十億ドルを払っても買収できないことを全世界に見せてくれて、
ありがとう。

ありがとう、
統治者の決定と、国民の願望との間に巨大な断裂があることを世界に示してくれて。
ホセ・マリア・アスナールとトニー・ブレアがともに、
自分を選出した国民の声にまったく重きを置かず、
まったく敬意をもっていない人であることを明確にしてくれて、ありがとう。
アスナールはスペイン国民の九〇%以上が戦争に反対であることを無視しおおせ、
ブレアはこの三十年間の英国で最も大規模なデモを心にかけない。

ありがとう、
あなたの不屈の精神のおかげで、
トニー・ブレアは捏造(ねつぞう)された書類をもって英国議会に臨まざるをえなくなった。
ひとりの学生によって十年も前に書かれた文書が、
「英国諜報機関の収集した決定的な証拠」として提示されたのである。

ありがとう、
コリン・パウエルを物笑いの種にしてくれて。
彼が国連安全保障理事会の場で提示した数枚の写真は、一週間後、
イラク武装解除の責任者である査察委員長ハンス・ブリクスから
公式な反論を受けることになったのである。

ありがとう、
あなたの態度のおかげで、
フランスのドミニク・ドビルパン外相は、戦争に反対する演説によって、
国連総会の場で万雷の拍手を受けるという名誉に浴することになった
─これは私の知るかぎり、国連の歴史上、これまでにたった一回しかなかったことであり、
それはネルソン・マンデラが演説した際だった。

ありがとう、
あなたの戦争努力のおかげで、
いつもばらばらであるのが当たり前のアラブ諸国が、
二月の最後の一週間カイロで開かれた会議で、
初めて一致団結して侵略を非難することになった。

ありがとう、
「国連が現実的な有用性を示す最後のチャンス」と主張するあなたのレトリックのおかげで、
もっとも及び腰だった国々でさえ、ついにはイラク攻撃反対の立場をとることになった。

ありがとう、
あなたの外交政策のおかげで、
イギリスのジャック・ストロー外相は、二十一世紀のただ中で、
「戦争が道徳的な正当性をもつ場合もある」と発言した 
─そして、その発言によって、すべての信用を失うことになった。

ありがとう、
統合のために苦闘しているヨーロッパを、分断しようと試みてくれて。
それはまたとない警告として、決して忘れられずに生きてくる。

ありがとう、
今世紀、ほとんど誰にもなしえなかったことを実現してくれて 
─世界のすべての大陸で、同じひとつの思いのために闘っている何百万人もの人を
結びあわせてくれて。
その思いというのは、あなたの思いとは正反対のものであるのだが。

ありがとう、
再び私たちに、たとえ私たちのことばが聞き届けられることがなくとも、
少なくとも自分は黙ってはいなかったのだ、と感じさせてくれて 
─それは将来において、私たちにより以上の力をあたえてくれることになる。

ありがとう、
私たちを無視してくれて。
あなたの決断に反対する態度を明らかにしたすべての人を除(の)け者にしてくれて。
なぜなら、地球の未来は除外された者たちのものだから。

ありがとう、
なぜなら、あなたがいなければ、私たちは自分たちに人を動かし、
動員する力があることに気づかなかったはずだから。
その力は今すぐには何の役にも立たないかもしれないが、
もっと後になって必ず役立つはずだから。

戦太鼓がもはや後戻り不能なところで鳴り響いているような今、
私はかつて、ひとりのヨーロッパの王が侵略者に対して語ったことばを自ら口にしておきたい。
「どうかあなたの朝が美しいものでありますように、
太陽があなたの兵隊の鎧(よろい)の上で輝きますように
─なぜなら、午後には私があなたを打ち負かしますから」

ありがとう、
すでに起動してしまっている歯車をなんとか止めようとして
街路を練り歩く名もなき軍勢である私たちに、
無力感とはどんなものかを味わわせてくれて。
その無力感といかにして戦い、いかにしてそれを別のものに変えていけばいいのか、
学ぶ機会をあたえてくれて。
それゆえ、どうかあなたの朝を、
そしてそれが今のところまだ、もたらしているのであろう栄光を、
十分に味わっておいていただきたい。

ありがとう。私たちに耳を貸さず、私たちの言うことを本気にしないでくれて、
ありがとう。
むろんのこと、私たちはあなたの言うことをしっかり聞いており、
あなたのことばを決して忘れない。
そのことを、ぜひ知っておいていただきたい。

ありがとう、偉大な指導者ジョージ・W・ブッシュ。
ありがとうございました。

(原文はポルトガル語。翻訳は旦(だん)敬介氏)
Paulo Coelho
ブラジルの作家。
47年リオデジャネイロ生まれ。
代表作は小説『アルケミスト』(88年、邦訳は地湧社と角川書店)。
他の著書に『ベロニカは死ぬことにした』(角川書店)、『悪魔とプリン嬢』(同)など。
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Top▲ | by mikansky | 2006-10-06 23:11 | words
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