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銀の匙
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シャワーを浴びて、万全に整えて待っていたのに
レッスン時間に生徒現れず。
「センセー、ごめんなさい。忘れてました」
結構あることです。
いや、シャワーを浴びて待ったことに理由無し。

中勘助の『銀の匙』を読む。

私の読書には、
一冊の本に凄まじく入り込んで止まらなくなってしまうことと、
少し読んでは時を置き、思い出したようにまた読み、
ゆるりゆるりと進むことの両パターンがある。
一気に読み上げないからといって
その本が面白くないというわけではない。
そのときの私の気分や、
でも大概はその文章の持つ気配に影響されてパターンが決まる。

『銀の匙』は、後者。
気持ちがそこへ向かったときに
ゆっくり少しずつ読むのが楽しい一冊だ。

こんなふうに思い返すことのできる幼少期を持っている人は
幸せだなぁ、と思う。
そして、それをこういう言葉で書き綴ることができる人は尚。
大人になってから振り返る幼少期というものは、
大抵、というか当然のように、
粗方を学習してしまった大人の視点と言葉で語られる。
なのに、『銀の匙』は、
幼少期を思い起こして綴られたものであるとわかっていながらも、
読み進めるうちに、一体どの視点から語られているのかと
一瞬迷ってしまうほどに子供の感覚に溢れているのだ。
大人の言葉ではあるのだけれど、
だけど、ぎりぎり子供の側に立ちとどまった感覚。

ああ、
この一冊が私をひきつける何かを、
的確に書き表すことのできない自分の表現力の無さが哀しい。
こんなに美しいのに。

本を読みながら、急にお腹の下の方が痛み出した。
ソファの上で丸まって、
「いたーい」と小さく言って体に力を入れる。
少し楽になりつつ、そこに、
鈍い棘の塊が転がるような感覚をまだ抱えながら、
今日も終わろうとしている。
Top▲ | by mikansky | 2007-05-05 16:23 | book
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