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プレゼント記事 2
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どうしてもあの一枚だけが見つからない。
私たちは、あの一枚だけだったのに、
見つからない。

私たちは、誰にも知られてはならなかった。
とはいえ、そんなことで昂るほど若くもなかったし、
時折、「秘め事だね」と言って小さく笑い合うくらいで
あとは、まるで小糠雨のように静かにむつみ合うだけで十分だった。

十分だったけれど、でも、
私にとってあの人は切ないほどに大切な人だった。
私は、あの人と出会ったことでいとおしいという言葉の意味を知った。
だから、きっといつかはさよならをする人だとわかっていても、
そうなってしまったとしても、
忘れないままに、"ここ"に抱いていようと思っていたのに。

何年かを一緒に過ごした間に、
たった一度だけ、たった一枚だけ写したふたりの写真。
それが、どうしても見つからない。
デジタルカメラから小さなカードに写し取られた記録の
ひとつひとつ探してみても、私たちはどこにもいない。
間違えて消してしまったのか、何かの理由で消されたのか、
それとも。

「誰の心の中にも
安全で頑丈な部屋がある
古い心の傷を癒すための」 *

「きっと、なるべくしてなったこと
そういうものなんだよ
君ならわかるはず」 *

誰にも知られてはならなかったから、
ひとりで泣くしかない。
誰も知らないから、
ひとりで痛みをこらえるしかない。
"ここ"、そう、心の中の
安全で頑丈な部屋に閉じこもって。

閉じた部屋の中で泣いて、痛みに身を捩りながら
それでもふと思う。
物事全てに神様が決めた流れがあるのだとしたら、
私たちを結んでいたものが断ち切れてしまったことも、
それに呼応するように小さなカードから私たちが消えてしまったことも、
それは素直に流れに運ばれた結果。
きっとなるべくしてなったことだった。

さようなら。
見つからないものは、もう・・・。

   *「And so it goes」Billy Joel より
     歌詞翻訳 mikansky
 

 キイさんへ
 秘め事。正直、私には全くもって縁のない言葉でして、
 どのように書いたものかと考え込みました(笑)
 で、フィクションです。
 ただ、撮ったはずの写真のデータが見つからないというのは
 しょっちゅうあることです。

 お題 「秘め事、カメラ、ビリー・ジョエル」
Top▲ | by mikansky | 2008-06-22 13:32 | other
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